はじめに

株式法務に関して勉強したことをひたすらまとめていく。Q&A方式を基本として、関連レポートも定期的に紹介。最終的には己のメモとして活用したい。

なお、記事一覧に関しては、以下のサイトをご参照下さい。

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役員持株会と招集通知

役員候補者が持株会(役員持株会)内で保有している持株数は、招集通知の参考書類に記載しなければならないのか。


結論としては、持株会内での保有株式数も加算した記載が必要である。

弥永真生教授の「コンメンタール会社法施行規則」にて「持株数は、会社関与への程度を明らかにする情報の一つであり、オーナー経営者かどうかを判断する材料にもなるので、候補者が実質的に所有する株式数を記載すべきである」とされている。

加えて、大阪株式懇談会(大阪株懇)の出版図書「会社法実務実務問答集Ⅰ上」では、京都大学北村雅史教授が、役員持株会の持ち分相当の株数を記載すべきであり、単元未満株数も加算すべきだと明確に記している。

取引先持株会を作る際の留意点

 取引先持株会を作りたいが、留意しなければならないポイントは何か。


1.出資先に自社株を持たせることについて
子会社が親会社の株式を取得することは明確に禁止されている(会社法135条)。その一方で子会社ではなければ出資先に自社株を持たせることは禁止されていない。いわゆる「株式持ち合い」状態となるが、5%ルールに抵触するまで保有しなければ議決権は認められる。

2.会員の企業規模について
自社より小さな会社に入ってもらうことが一般的だが、例えば中堅メーカーの場合、鋼材や電機機器などを定期的に購入しているのであれば相手が日本を代表するような大企業でも入ってもらえるケースはある。加入勧誘は、企業規模より取引内容が重要である。

3.事業会社以外の加入について
取引先であれば、会員は個人でも入会は可能(持株会制度ガイドラインより)。

 

改正産業競争力強化法

改正産業競争力強化法とは何か

改正産業競争力強化法とは政府が「特別事業再編計画」と認定した企業の再編案件について、自社株を対価としてほかの会社の株式を取得しやすくするよう支援する内容。再編が生産性向上につながることが条件となっている。

買収企業が自社株を対価にTOBを実施した場合、被買収企業の株主は受け取った買収企業株の売却時まで課税を繰り延べることができる。通常は被買収企業の株主がTOBに応じた場合、株式売却と見なされ、売却益相当額が課税対象になる。株式が対価だと実際にお金も入っていないのに、株主は税金を納めるために資金手当てが必要となる。現金を用意するために受け取った株式を売れば買収企業の株価が下落しかねない。そのため株式対価のTOBは応募を見送る株主が多くなることが想定され、自社株を対価とする買収は困難な状況だった。

成長過程の新興企業などは手元資金が限られる一方、将来性を見込まれ、高い株価が付いている場合もある。自社株を対価として渡せれば、M&Aなどで新規分野に進出するなど経営戦略の幅が広がる。改正産業競争力強化法では税制だけではなく、会社法の特例措置も認められた。諸手続きが省略できる。従来はTOBで子会社化するケースが対象だったが、改正法では相対取引で買収する場合などに特例対象が拡充された。

代表取締役名誉会長

代表取締役名誉会長とは何か。

代表取締役名誉会長とは、今でこそあまり耳にしない役職だが、高度経済成長期から1990年代にかけては、社内だけでなく業界、経済界に強い発言力を持つ経営者の代名詞だった。2000年以降、執行役員制の浸透やガバナンスの透明化、意思決定を早めるためのトップへの権限集中などの流れで、同役職は急速に数を減らした。こうした役職は、もともとは創業社長が就き、取引銀行などの信頼をつなぎ留める、従業員の求心力を維持する、といった場合に有効との意見がある。一方で、権限が現役社長、会長以外に分散するため、意思決定が遅くなるといった弊害も指摘されている。

海外の内部通報制度の整備

海外も含めた内部通報制度の整備が求められる背景は何か。

会社法では、グループ会社の内部通報制度を「子会社の取締役や従業員の職務の執行が法令や定款に適合することを確保するための体制」を具体化する内容の一つとして位置づけている。また、上場企業を対象とするコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)も、各社の事情を踏まえた内部通報の体制整備を求めていることも背景にある。

更に、消費者庁からは2016年12月に「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」が公表された。その中で経営上のリスクに関する情報を早期把握する機会を拡充するため、子会社などの従業員も含めた制度の設定が適当だと指摘されている。グループ単位で内部通報制度の構築や運用が必要になりつつあり、外国の現地法人も含めた整備を検討しなければならない。

会社法上の常勤

会社法上の「常勤」とはどれくらいの頻度を指すか。

会社法上の「常勤」とは「週3日以上勤務が目安」との解釈があるが、日本で常勤とされる役員は月曜から金曜までフルタイムで働き、経営会議など様々な会議に出席することがほとんどである。

相談役・顧問制度の情報開示

上場企業が相談役・顧問制度の情報開示を求められるのはなぜか。

東京証券取引所が上場企業に相談役・顧問制度の情報開示を求めたのは、日本企業の経営の透明性を高めて企業価値の向上につなげることが狙い。相談役・顧問制度は会社法に規定がなく、設置基準も企業によってばらばら。海外にはない日本独特の制度でもあり、株式市場で存在感を増す外国人投資家からは「制度が不透明」との指摘が多く、トップ経験者による「院政」が経営を混乱させるとの国内外の投資家の懸念が後押しになった。

相談役・顧問制度は終身雇用を前提とした日本的経営の、いわば「終着点」であり、社長を務めたあと半ば自動的に顧問や相談役のポストに就くのは、日本企業に長く根付いた慣習とされている。経営トップにしてみれば、自分を引き上げてくれた元上司である相談役や顧問の処遇には触れづらい。また「社長OBの助言は大局的で有益」といった声も根強く、財界活動のために制度を設けている企業も多い。

こうした事情も勘案して、経済産業省が2017年3月にまとめた「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」でも「相談役・顧問が一律に良い・悪いというものではない」との文言が盛り込まれている。